2022年 金賞受賞
株式会社電通西日本(受賞当時) 松本 千鶴さん(コピーライティング)
株式会社プロモーションズライト 椿 美沙さん(デザイン)
メッセージ|アイデア|表現(ビジュアル/コピー)
の3つが上手くまとまり、落とせた!という感覚に。
2022年のジャパン・シックスシート・アワードにて金賞を受賞された松本さんと椿さん。
日頃は広告会社にお勤めのお二人に、課題を選択したポイントや、制作に至るまでのアイディアの膨らませ方など、さまざまなお話を聞かせていただきました。
2022年金賞作品 課題:エンゼルパイ
審査員総評抜粋:ふんわりと待ち構えているパイになだれ込むように飛び込んでうずくまった女の子を表現しています。この絶妙で甘い美味しさいっぱいの世界が最高の作品です。
「甘ったれたい日もあるさ。」人は疲れ果てたそんな日、あるいは甘いものが欲しくて欲しくてたまらない時、こんな気持ちになります。それをそのままビジュアルにできた見事な作品といえます。
応募に至るまでのいきさつを教えていただけますか?
椿さん: 松本さんに誘われ、また、審査員に惹かれたので。
松本さん: 審査員の方々が第一線で活躍されている方ばかりだったので、ぜひ自分の作ったものを評価いただきたいと思い応募に至りました。また、バス停広告という媒体に特化してクリエイティブを考えるというのも、通常のクライアントワークにはあまり無い取り組み方で興味深いと思いました。
お仕事での制作と、プライベートワークとの違いはありますか?
椿さん: 仕事では食品パッケージがメインなので、そもそも「広告」を考える機会は少なめ。広告の案出し作業は頭の体操のような感覚で、作り込む作業よりも考える時間の方が圧倒的に長いと思います。実務だと、初案は尖っていても最終的には中途半端なかたちになってしまうことが多々あります。しかしそれは、色々な責任や事情が重なるため仕方がないことだと思っています。コンペは、初めから最後まで、自分たちの思惑だけで作れます。良い意味で無責任、好き勝手、自分たちの意志・センスを信じて走り切ることができると感じています。
松本さん: クライアントワークは、クライアントが伝えたいメッセージを叶えつつも、世の中の人にとっても心地いいと感じられるもの・見て良かったと思えるものが作れないかと考えるのが楽しいです。プライベートワークはそこから一歩踏み込み、今世の中にメッセージすべきこと・問題解決できることは何かを考えるようにしています。発想方法に特に差はありませんが、どこにゴールを決めるかを意識しながら取り組んでいます。
この課題を選んだ理由についてお聞かせください。
椿さん: 一番身近でした(結局食べることが好き)。自分に結びつけて考えられる方が、よりよいものを作れる実感があります。
松本さん: 課題を選ぶ時は「自分にとって身近じゃないものは選ばないようにしよう」と、あらかじめ椿さんと決めていました。自分がユーザーでなかったり愛着が湧かないものは、ロジックで作ったとしても嘘になるんじゃないかと思ったからです。その上でエンゼルパイを選んだのは、昔から馴染みのあるお菓子で存在が可愛いなと思ったから。同時に、今も可愛いと思っているのに、子どもの頃ほど買わなくなってしまったのはなんでだろう、というところが企画を考える出発点になりました。
クリエイティブの制作において、
アイディアの膨らませ方のコツなどがあればお聞かせください。
椿さん: メッセージをどうするか、というブレストから初めました。エンゼルパイはお菓子の中でもかなり甘い商品ですが、それを食べたい時はどういう時か、一歩踏み込んだリアルな感情やシチュエーションを、自分達自身とエンゼルパイとのこれまでの関わりから広げていきました。「ご褒美、(こども会などの)優勝商品ではなく、がんばったで賞、参加賞だったよね。」とか、「楽しい時や嬉しい時だけでなく、悲しい時や苦い思い出の中にあるからこそ、この甘さも活きるのでは。」など。メッセージは「ほろ苦い時に寄り添ってくれるあまーい存在」に決まりました。そこから、自分達の年齢に近いターゲットに向けたイメージアイデアを膨らませ、疲れて部屋でだらけているアンニュイなOLを主役にすることにしました。製作を進める中、柔らかいマシュマロが入っているという特徴を強化することで他商品との差別化をすることにしました。結果、疲れ果てたOLを受け止める、人をダメにするクッションのようなアイデアが生まれました。だらけたい人を表現するにあたり、作り込んだ絵はいらないように思え、鉛筆でガシガシと描いたラフをそのまま採用しました。ただし、エンゼルパイが美味しそうに見える点は大切にしました。今回、「メッセージ」「アイデア」「表現(ビジュアル/コピー)」の3つが上手くまとまり、「落とせた!」という感覚がありました。これ以上も以下もないと確信しました。
松本さん: 企画打合せの際はそれぞれの専門領域にとらわれず、コピーもビジュアルも各々がセットで考えて持ち合うよう決めていました。その上でお互いの案に対して忌憚のない意見を言うこと。誰しも自分のアイデアが一番可愛いので(笑)、意外とここが大事だったかもしれません。椿さんは公私共に凄く信頼しているパートナーなので、耳が痛い意見でも「椿さんが言うなら受け入れよう」とポジティブに向き合えたことは大きかったです。あとは実際に手に取る・食べる・周りに意見を聞くなどし、商品が世の中でどんな存在か・どのくらいのサイズ感なのかも見失わないように心がけました。
シックスシートならではというフォーマットをどのように意識されましたか?
椿さん: 広告制作のセオリーですが、街中において一瞬で理解させるためにも「サイズが大きくなるほどメッセージはシンプルにすること」が大事だと実感しました。今回の絵に関しては、(バスで帰宅中に)早くおうちに帰りたい、と思えることも意識しました。
松本さん: どうせなら通常のバス停広告では見た事のないものを作ろう、という意識は持っていました。「世の中の人にとって広告はどうでもいい存在」とよく言われますが、一方で面白い広告はTwitterやまとめ記事などで取り上げられることも多々あります。そんな存在に自分たちの広告を持っていくには、と、見る人の気持ちを逆算しながら考えました。
多様に変化する社会における広告の役割についてのお考えを教えてください。弊社媒体を含む屋外広告、さらには広告全般におけるメッセージはどのように変化していくでしょうか?
椿さん: SNSや配信サービスなど、流行の興亡がとにかく目まぐるしく、昨日のトップニュースは今日にはもう古すぎる内容になっていたりします。消費のスピードアップに合わせて広告のスピードもアップしていますが、心にぐさっと、ガツンといつまでも残るものは少なくなってきており、「名作」はあまり生まれていないようにも思えます。時代遅れにならないように、けれども時代に流されないように、しっかり見据えて発信していきたいです。
松本さん: 近頃の広告はとにかく目立つことに躍起になっている印象があり、見ていてノイズに感じることが多々あります。これだけ多様な情報が大量に溢れる世の中なので、認識されるためには致し方ないことなのかもしれませんが、個人的にはそういった商業的な役割だけでなく、情緒的な役割も担っていてほしい。広告を見た人が「うわーうっかり見ちゃったよ」となるのでなく、「好きだな」「見て良かったな」と思えるものが世の中に増えることで、人と広告の間にポジティブな関係性が生まれ、よりよい広告の未来に繋がるのではないかと思います。語弊を恐れずに言えば、もっと広告が嗜好品やアートに近いものになればいいのになと思っています。
今後の目標をお聞かせください。
椿さん: 「上手い」だけでなく、「旨い・美味い」広告をデザインしていきたいです。
松本さん: 今回は椿さんのデザインに助けられたところが大きいと思うので(笑)、次は自分のコピーの力でも賞を獲りたいと思います。