2023年 金賞受賞:勝間 有咲さん
課題: LGBTQフレンドリー都市、大阪

「人間がただ生きていること」をデザインを通して肯定する

2023年のジャパン・シックスシート・アワードにて金賞を受賞された勝間さん。

日頃は美術大学に通う勝間さんに、制作に至るまでのいきさつや、課題を選んだ背景にある思いなど、さまざまなお話を伺いました。

winner

Q1:応募に至るまでのいきさつを教えていただけますか。

夏前に珍しい病気に罹ってしまい、人生で初めて入院生活をしました。病室から出られず、パソコンでの作業もできず、朝検査に行って時間ぴったりに出てくる入院食を食べてシャワーを浴びて寝ることの繰り返しで。窓から出勤する人を眺めたり忙しく活動している同級生のSNSを見たりすると今の自分は何の価値も生み出していない...とすごく落ち込んでしまいました。

でもお医者さんは必死に病気を治そうとしてくださって、看護師さんは忙しい中時間をとって話を聞いてくださったりして。何かそこで「あ、人間は何ができるできないに関わらず元気に生き、辛いときに寄り添ってもらえるんだ」と改めて思いました。自分はただデザイナーに対する憧れだけで美術大学に入ったのですが、入院経験を経て自分はデザインを通してどうやって「人間がただ生きていること」を肯定できるのだろうと考えました。

退院してからすぐ、この感覚を具体化するためにコンペに応募しようと考えてシックスシートアワードを見つけました。お医者さんや看護師さんのように具体的で直接的な方法に比べるともっと抽象的で空気に溶けてしまうような方法ですが、広告やグラフィックデザインにはそういう力があるのではないかと思いながら制作していました。

Q2:学業での制作とプライベートワーク(受賞作品含めます)との対比など伺えますでしょうか。

私は大学での制作がすごく苦手でした。あまりにも自由で、宇宙の中に1人で放り出されたみたいな感覚になるんです。それでも手を動かして自分の表現を見つけることが楽しいし、必要なことなんだろうと思うんですが・・・

それに対してこういったアワードやコンペは、はじめからある程度目的が見えていますよね。その目的に共感し、いちばん素敵で確かな道筋を見つけることにおもしろさを感じます。今の自分のバランスには大学での制作もコンペやアワードへの挑戦もどちらも必要だと思います。最短距離をいけばいいわけではないし、だからといっていつまでも彷徨っているわけにもいかないところがデザインのおもしろいところだと感じます。

Q3:この課題を選んだ理由についてお聞かせください。

この一課題、一点しか応募していないんです。受賞するかどうかということよりも、この課題を通して先述した「一枚のポスターを通じて知らない誰かの存在を肯定できるか?」という挑戦ができるのではないかと考えて選びました。

さらに、大阪が自身の地元であること、LGBTQの知り合いがいることなど、個人的に自分に近いテーマであることも決め手でした。

Q4:受賞作品の着想から、クリエイティブの制作に至るまでの過程(アイディアの膨らませ方のコツなどがあれば)をお聞かせください。

当事者でない自分がこのテーマを扱うにあたり、するべきでないことをしないということだけを考えていました。

当初LGBTQという言葉や虹色の旗は、不当な扱いと戦う同志の連帯を示すための手段だったと思います。しかし少なくとも今の日本の都市では、そういう意味ではなくなってしまった部分もあるのではないかと感じていました。虹色は商業施設や都市が当事者の戦いに便乗して「私たちは多様性を受け入れるいい感じの団体です!」ということを手っ取り早く示すマークではありません。

ですので、大阪市がLGBTQフレンドリー都市であることを示すためにたまたまそこにあったその強いアイコンを使う(全面に虹色を使ったり、当事者の方をモチーフとして過剰に持ち上げる)ことはするべきでないと考え、排除しました。

そして真っ白になった紙に、大阪の商店街を歩けば絶対に出会う人たちをペン一本で描き、nothing is normal 普通ってなんや。という言葉を添えました。

LGBTQの方たちを当たり前に受け入れるということは、アイコン化して持ち上げることではなく、ただ大阪を歩いている人たちと同じようにただ受け入れるということだと思いました。そして大阪は当然のようにそれをする空気があると信じて提出しました。

まさかこのような結果になるとは思いませんでしたが、これ以外にやることも思いつきませんでした。

Q5:シックスシートならではというフォーマットをどのように意識されましたか?(大きさ、シチュエーション、見る人の行動など)

連絡がくるまで本当に掲出されることになると思わず、掲出されることを具体的に想像していなかったのですが、目立つというよりは正しく伝えることを第一に作りました。

winner

Q6:多様に変化する社会における広告の役割についてのお考えを教えてください。弊社媒体を含む屋外広告、さらには広告全般におけるメッセージはどのように変化していくでしょうか?

(恐縮ながらデザイナーとして社会に出て働いたことがないので、理想論でしかないと思うのですが・・・)

消費や趣味が個人化し、よくも悪くもわかりやすい数字や一般論で物事を決めることができなくなっている今、何かをいかに魅力的にアピールするかというより、誰が何を言うかが重要になっていると感じます。よく世の中の黒子と言われていたデザイナーについても、この流れを無視することはできないような気がして。

ものやことの魅力を正しく伝えることに加え、今までどのように生きてどのような考えを持っている人がどのように伝えるか、ということが問われていくような気がします。そのため、自身の背景やスタンスを作っていくこと、世の中の流れを大きく細かくキャッチすることの両方に取り組み続ける必要があると思います。

Q7:今後の目標などがあればお聞かせいただけますか。

まだまだ未熟というか、スタートラインにも立っていないので、まずは目の前の課題やお仕事に真剣に取り組みたいです。

このアワードを通して、何かをデザインし、多くの人の目に触れたり手に取られたりすることは本当に幸せで、同時にすごく怖いことだなと感じました。デザインされた何かを見るとき、世の中のスタンスを感じるからです。例えば、電車に乗っているときに電車広告が目に入り自身の特性を否定されたら、まるで世の中全体に否定されているように感じてしまうと思います。でも逆も然りですよね。

先ほどの回答と重複しますが、何十年後かには「人間がただ生きていること」を肯定できるデザイナーになりたいです。